Share

第22話 楽しい時間ほど、途中で抜ける理由が苦しくなる

last update Tanggal publikasi: 2026-08-27 19:00:47

 カラオケという場所は、不思議なくらい時間の流れを狂わせる。

 一曲が三分とか四分とか、数字にすれば大した長さではないはずなのに、マイクを回して、誰かが笑って、次のイントロが流れて、気づけばさっきまでの緊張がもうずっと前のことみたいに薄れている。

 久瀬湊人はソファの端に座りながら、その感覚を少しだけぼんやり味わっていた。

 テーブルの上には飲み物のグラスが並び、デンモクはすばると日野の間を行ったり来たりしている。真白はさっき歌い終えたばかりで、マイクを置いたあとも少しだけ頬が熱そうだった。紬希はその横で控えめに笑いながら、次の曲が始まるのを見ている。

 部屋の照明は少し落ちていて、モニターの光がみんなの横顔を薄く照らしていた。

 この空気が、思っていたよりずっと心地いい。

 誰かが無理に盛り上げているわけではない。

 でも、自然に笑いが起きる。

 うまく歌えたら素直に拍手があって、外したら外したで笑いになる。


Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi
Bab Terkunci

Bab terbaru

  • 『学校では地味、配信では人気VTuber、さらに隠し事まである僕の青春ラブコメは最初から難易度が高すぎる』   第70話 ツンデレとオタクと静かな子が揃うと、地味男子の逃げ道が消える

    金曜の朝、久瀬湊人は教室の扉を開ける前から、今日は少しまずいかもしれないと思っていた。 理由ははっきりしている。 昨日の昼休み。 倉科紬希が静かに怒った。 “大丈夫じゃない時に大丈夫って言わないで”と、かなり本気の声で。 そのあと、自分は思わず「ごめんな」と返した。 あれで、たぶん一段進んでしまった。 何が、とはうまく言えない。 でも少なくとも、窓際の空気の中で、自分だけが曖昧な言い方や整えた言い回しへ逃げる余地は、昨日までよりかなり減った気がする。 真白はもともと逃がしてくれない。 すばるは軽く見えて、核心の逃げ道を潰す。 紬希は静かだが、いちばん深いところへ真っ直ぐ入ってくる時がある。 日野は気楽な顔で一番現実的なことを言う。 その四人がそろっていて、さらにここ数日で“学校の中を守る”という共通認識まで持ってしまった。 そんな状態で、これ以上自分だけがうまく誤魔化し続けられると思う方がたぶん甘い。「……包囲網、か」 自分で昨日言った言葉を思い出し、少しだけ苦笑する。 冗談半分のつもりだったのに、今朝の気分としてはかなり正確だった。     ◇ 教室へ入ると、窓際の空気はいつも通りのようでいて、やっぱり少しだけ違った。 日野が前の席でぐだっとしている。 すばるはスマホを見ながら「朝から情報量多い」と何か騒いでいる。 真白はその横で「うるさい」と言いながら、でも完全には無視していない。 紬希は静かに席へ着いて、少しだけこちらを見た。「おはようございます」 声をかけると、四人がそれぞれ返す。 そのうち、真白が一番最初に異変を拾った。「今日は」「はい」「昨日よりはマシ」 

  • 『学校では地味、配信では人気VTuber、さらに隠し事まである僕の青春ラブコメは最初から難易度が高すぎる』   第69話 静かな子は、“大丈夫”じゃない人を見ると静かに怒る

    倉科紬希は、怒るのが得意ではない。 怒鳴るのは苦手だし、 強い言葉を投げるのも好きではないし、 誰かを責めて空気を重くするくらいなら、自分が少し引いた方が楽だと思う方だった。 だから今まで、怒りはたいてい自分の中だけで処理してきた。 少し嫌だな、と思っても飲み込む。 理不尽だな、と思っても離れる。 それで済むなら、その方がきれいだから。 でも最近、そのやり方では足りない時がある。 久瀬湊人が関わると、とくにそうだ。 しんどそうなのに学校へ来る。 来て、ちゃんと笑おうとする。 大丈夫じゃない顔をしているのに、「大丈夫です」と言う。 それでいて、みんなに余計な心配をかけたくないみたいな顔をする。 やさしいのだと思う。 たぶん本当に。 でも、そのやさしさの方向が時々すごくずれていて、見ているこちらの方が苦しくなる。 ここ数日、紬希はそれを何度も感じていた。 飲み物を渡した時の、少し疲れた「助かります」も。 打ち上げへ行けなかった夜の「本当に残念でした」も。 担任へ少しだけ事情を伝えたあとの、ほっとしたような表情も。 全部、久瀬湊人という人のやさしさだ。 でも、そのやさしさの裏側で、本人だけが無理を重ねているのだと分かると、さすがにもう、静かに見ているだけではいられなかった。     ◇ 木曜の昼休み、窓際の空気は一見、穏やかだった。 日野が購買の揚げパンを雑にちぎって食べ、 すばるが「だからこぼすって」と笑い、 真白が「机の上でやるな」と刺し、 湊人が「それはたしかに」と少しだけ笑う。 紬希も、その流れの中で控えめに笑った。 外から見れば、普通の高校の昼休みだ。 でも、今の紬希にはその“普通”の奥にあるものまで見

  • 『学校では地味、配信では人気VTuber、さらに隠し事まである僕の青春ラブコメは最初から難易度が高すぎる』   第68話 言えないことがある人間は、言える範囲で守るしかない

    担任に「最近、何か困ってることあるか」と聞かれた瞬間、久瀬湊人は少しだけ息を止めた。 それは放課後、ホームルームが終わった直後のことだった。 教室の空気はもう帰り支度へ流れていて、部活のある生徒はそわそわし始め、残る者は誰と帰るかを確認し、今日も窓際の面々はなんとなく同じタイミングで動こうとしていた。 そんな中で、担任が教卓の上の資料をまとめながら、ふとした調子で言ったのだ。「久瀬」「はい」「ちょっといいか」 呼ばれ方は自然だった。 だからこそ、逆に逃げにくい。 窓際の四人も、それを聞いた瞬間に少しだけ動きを止めた。 露骨ではない。 でも、最近の自分たちはそういう“少し”にやたら敏感だ。「廊下でいい」 担任が言う。「はい」 立ち上がる。 その間に、真白がほんの一瞬だけこちらを見た。 すばるも、日野も、紬希も、それぞれ違う形で“何だろう”の顔をしている。 ああ、と思う。 もうこういう時点で、自分一人だけの話ではないのだ。     ◇ 廊下の窓際は、夕方前の薄い光が差していた。 教室のざわめきが一枚向こうにあるくらいの距離。 完全な密室ではない。 でも、人に聞かせる前提でもない。 先生がこういう場所を選んだ時は、大抵“深刻にしたいわけではないが、確認はしたい”時だ。 担任は窓の外を一度だけ見てから、率直に聞いた。「最近」「はい」「学校の外で、何かあるか?」 回りくどくなかった。 しかも、思っていたより具体的だった。 湊人は一瞬だけ言葉を探す。

  • 『学校では地味、配信では人気VTuber、さらに隠し事まである僕の青春ラブコメは最初から難易度が高すぎる』   第67話 噂になった時点で、“自分だけの問題”ではなくなる

    噂というものは、はっきりとした事件より先に空気へ染みる。  誰かが大声で言いふらすわけではない。  むしろ逆で、断片のまま、曖昧なまま、人から人へ渡っていく。  最近、校門の近くに変な大人が立ってない?  あの転校生、たまに外でスーツの人に呼ばれてるらしいよ。  なんか、家がちょっとすごいとかじゃない?  いや、でも芸能系かも。  雰囲気ちょっと普通じゃないし。  そういう“まだ形を持たない話”が、一番厄介だと久瀬湊人は知っていた。  事実ならまだ対処のしようがある。  完全な嘘なら、切り捨てられる。  でも、半分だけ本当で、半分はただの想像みたいな噂は、どこから修正しても必ず何かが残る。  そして今の学校の中には、その手のざわつきが、確実に生まれ始めていた。      ◇  木曜の朝、教室へ入る前の廊下ですでに違和感はあった。  すれ違う二人組の女子が、こちらを見たあとで少しだけ声を落とす。  階段の踊り場で話していた男子が、久瀬の姿に気づくと会話を一拍だけ止める。  どれも露骨ではない。  でも、露骨ではないからこそ分かる。  ああ、これは始まったな、と思う。  視線の意味が変わってきている。  ただの転校生を見る目ではなく、  “何かあるらしい人”を見る目へ。 「……最悪だな」  心の中でだけそう呟く。  原因ははっきりしている。  校門の外の視線。  教室へ来たスーツの男。  最近の下校時の不自然なまとまり。  それら全部が、断片のまま学校の空気へにじみ始めているのだ。  教室の扉を開ける。  窓際の空気は、まだいつも通りに近かった。  日野が「眠い」と言い、  すばるが「毎朝それ」と笑い、  真白が「もはや挨拶」と切り、  紬希が小さく笑う。  そこへ自分も入る。

  • 『学校では地味、配信では人気VTuber、さらに隠し事まである僕の青春ラブコメは最初から難易度が高すぎる』   第66話 みんな薄々わかってるから、一人で抱え込むのが一番だめになる

     久瀬湊人は、昨日の昼休みから放課後にかけて、自分が思っていた以上にきれいに包囲されていたことを、木曜の朝になってようやく実感していた。 一人で校門の外を見に行こうとした。 それは、自分の中では“少しだけ状況を把握するため”のつもりだった。 窓際の皆をこれ以上巻き込みたくないという気持ちも、本当にあった。 でも結果として、それは全方向から止められた。 真白には「一人で抱え込んで動くな」と切られ、 すばるには「そういうとこだよ」と呆れられ、 紬希には静かに「次しないで」と言われ、 日野には「最初から反対」と軽く言われ、 朱莉には「地味男子の動きじゃない」と現実的に処理された。 誰一人として、真正面から怒鳴ったわけではない。 でも、だからこそ逃げ道がなかった。 みんな薄々わかっているのだ。 何か外側の事情があること。 それがかなり面倒なこと。 そして、自分がそういう面倒を“言わずに一人で引き受ける方”の人間だということまで。「……完全に読まれてるな」 朝、登校途中の道で小さく呟く。 読まれているのは秘密の正体ではない。 もっと手前の、人としての悪い癖だ。 全部は言えない。 でも、それを理由に一人で動く。 そういう流れを、最近の窓際はもうかなりの精度で見抜いてしまう。 それは面倒だ。 でも同時に、少しだけ楽でもある。 少なくとも、もう一人で全部を背負って平然とした顔を作るのは難しいのだと、向こうが先に理解してくれているから。     ◇ 教室へ入ると、日野が珍しくこちらを見るなり笑った。「お、来た」「おはようございます」「今日は単独偵察なし?」 朝一からそれを言うのか、と湊人は少しだけ

  • 『学校では地味、配信では人気VTuber、さらに隠し事まである僕の青春ラブコメは最初から難易度が高すぎる』   第65話 地味男子の顔を守るには、少しだけ地味じゃない動きが要る

     久瀬湊人は、自分が受け身のままでいられる段階を、たぶんもう少し前に過ぎてしまっていたのだと思う。 文化祭の非常階段で、声が少しだけ漏れた時点で。 打ち上げに来られなかった夜、短いメッセージを送った時点で。 教室へスーツの男が入ってきた時点で。 そして昨日、校門の外の視線が“本人だけではなく生活ごと見ている”と共有された時点で。 もう、“隠していれば何とかなる”の段階ではない。 もちろん正体はまだ知られていない。 でも、何かがあることは、窓際の面々にも、そしておそらく学校の外の連中にも、かなりの精度で伝わり始めている。 だったら次に必要なのは、ただ隠れることではない。 むしろ、学校生活を守るために、少しだけ先回りして動くことだ。 そう思ったのは、水曜の夜だった。 ベッドの上で、スマホを伏せたまま天井を見る。 家側の窓口へすぐ確認を入れるべきか。 AstraLink側にも、学校近辺の不審な視線について共有するべきか。 あるいは、まず自分で一度だけ校門の外を見に行くべきか。 選択肢はある。 だが、そのどれもが“地味男子・久瀬湊人”のままではやりづらい。 少しだけ、外側の顔に寄らなければならない。「……でも、やるしかないか」 小さく呟く。 このまま見られ続けるのは嫌だ。 窓際の空気ごと観察されるのも嫌だ。 真白も、すばるも、紬希も、日野も、もう十分巻き込まれている。 守りたいなら、自分も少しは動かなければならない。 ただ受け身で申し訳なさだけ抱えていても、何も減らないのだから。     ◇ 翌日、木曜の朝。 教室へ入ると、窓際の空気はいつも通りの形をしていた。 日野が眠そう

Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status